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心理から見た「般若心経」 その4

「空」と「社会構成主義」


「その3」では「五蘊」と「」について述べました。
今回はいよいよ「空(śūnyaシューニャ)」についてです。

数字のゼロも、その原語は「シューニャ」。

だからか、
「1でも2でもなんでも、とにかく『0』で割ると無限大になる。
だから『空』というのは『何も無い』ということではない」

「どんなモノでも『0』を掛けると『0』になる。つまり『無』である」

「インドで『0』というものが考えられたおかげで、いくらでも大きな数字を考えられるようになった」

とかいろいろ書かれていて、だから

「『有る』とか『無い』ということではない」

というようなことがいろんな解説書に書かれています。

しかし、それがどうしたんだ?という気がしないでもないんですよね。
筆者としては、別にそうだからといってすっきりと腑に落ちるわけでもないワケです。

逆に、ここはあっさりと『空』とは『無い』ということだと考えたほうがいいんじゃないかと思うのですが…。

「そもそも全ては移り変わっていくし、こだわっていても確かなものなんて『無い(空)』んだよ」と観音様は言いたかったんじゃないでしょうか?

ところで、「有る」か「無い」か、というか「有る」とはどういうことかについて、心理学として取り上げたいのは社会構成主義という考え方です。

社会構成主義とは、物事は客観的に存在するのではなく、社会的な関係や相互作用の中で意味が作り出される、つまり人間が認知するからこそ存在するという考え方。

これまたなんのこっちゃという話になるのですが、筆者なりにちょっと例を考えてみました。

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通いなれた通勤の道。

ふと横を見ると新しい居酒屋がオープンしている。

「あれ? ここって前は何だっけな?」

すなわち、前の店はその人の中では存在していなかったということになる。

(Copyright(c) 合同会社ベルコスモ・カウンセリング)
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つまり簡単に言うと、客観的な「在る」とか「無い」とかいうことではなく、主観的な「在る」とか「無い」という世界で我々は生活しているということなんですね。
ちなみに内山興正という偉いお坊さんが、その師匠の沢木興道の言葉を元に書かれた本で「宿なし興道法句参」というのがあります。

そしてそこには、この社会構成主義や認知心理学と重なる「唯識論」の話がこう書かれています。

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沢木興道法句 「『唯識論』という書物に『内識転じて二分に似る』とあるが、たった一つの意識が動いて、主観と客観があるに似ており、そのなかでこれを追ったり逃げたりして大騒ぎがはじまるのである。煩悩というのはオカシナもんじゃね。」

(以下内山興正師の注釈)
「目障りな人」が存在するということは、決してたんに「その人が存在するから」目障りなのだとは限らず、むしろこちら側の「自分の目のクセが同時に存在するから」目障りになるということだけは知っておかねばなりますまい。
 こちらに食欲があればこそご馳走も目につくのであり、こちらに色気があればこそ異性も目に入るのです。つまり食欲・性欲という目のクセをもっていればこそ、それに応じた世界も展開されてくるわけです。
たった一つの内識(私という個人生命力)が働くところに、その目のクセに応じた「自分の見る世界」が展開され、これを見ながら、この世界のなかで追ったり逃げたりするわけで、ほんとに煩悩とはオカシナものです。

(内山興正著「宿なし興道法句参」より引用 ()内は筆者加筆)
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この内山興正師の話はわかりやすいですよね。

つまり、目障りな「Aさん」というのは、ある人にとっては存在するのでしょうが、実は他の人にとっては存在しないとも言えるワケです。

言い方を変えると、「自分の目のクセ」という「こだわり(執着)」が無ければ、「目障りな人」によって苦しむということも無くなるということになります。

観自在菩薩の仰るところの「空」ということを理解することによって「度一切苦厄」、つまり全ての苦しみから救われるというのを、心理学的に説明するとこうなります。

認知療法の考え方そのものですね。

現在進行形の中でどう変化していくか


さて、空(śūnya シューニャ)についてもう少し掘り下げていくと、仏教の「刹那」という概念がこの「変わっていく」に関係してきます。

刹那とは1秒の75分の1、つまり0.013333…秒という単位だそうです。
その速さで変化しているということですね。

なお説一切有部という部派では、「変化」というよりも人の意識は一刹那の間に「生まれては消えていく」という考え方をしています。

これは蛍光灯をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれませんね。 蛍光灯はずっと点いているように見えるが、東日本では1秒に100回、西日本では1秒に120回点滅しています。

説一切有部の刹那の考え方でいくと、我々の意識も連続しているようで、実は0.013333…秒で生成消滅しているということになるワケです。

だから先ほどの自分は今の自分ではないし、前回書いた社会構成主義の考え方でいくと、意識が違えば世界も違ってきます。

ここでもう一つ、心理の話です。
ゲシュタルト心理学というのがあり、これは簡単に言うと、1つ1つのモノが集合した場合、全体としてのモノはその足し算とは違う(場合がある)という理論です。

これは、先ほどの蛍光灯の例に似ていますが、昔街角によくあったネオンサインをご存じでしょうか。
パチンコ店の店頭とかによくあったんですけど、色とりどりの電球が次から次へと点灯していき、光が流れるように見えたアレです。

一つ一つの電球は、ただ点いたり消えたりしているだけなのですが、全体(ゲシュタルト)としてはそれは絵になったり流れになったりとして我々の脳は捉えています。

心もそうなのかもしれませんね。

だから「無常(一切のものは、生じたり変化したり滅したりして、変わらないモノはない)」ということになるのでしょう。

そして松原泰道師は、その「無常」を、「現在進行形」と訳されたのですが、これには本当に感心しました。

なるほど!ですね。

「空」とか「無常」とか聞くと、ついつい儚さとか虚しさを感じてしまいがちですが、そうではなくて我々は「現在進行形」の中で生きており、どう「変化」していくかが大事なのです。

というところで、続きは「その5」へ。


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