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心理から見た「般若心経」因果関係

前回は般若心経の「眼耳鼻舌身意」について、認知の面からお話しました。
そこで今回は

仏説摩訶般若波羅蜜多心経
観自在菩薩行深般若波羅蜜多時
照見五蘊皆空度一切苦厄
舎利子色不異空空不異色
色即是空 空即是色 受想行識亦復如是
舎利子是諸法空相
不生不滅不垢不浄不増不減
是故空中 無色無受想行識
無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法
無眼界乃至無意識界

とあるところの「無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法」から続きます。

これは「眼、耳、鼻、舌、身(身体)、意(意識)も無いんだから、眼で色(モノ)を見たり、耳で声(音)を聞いたり、鼻で香(匂い)を嗅いだり、舌で味わったり、身体で触れて感じたり、意(意識)で法(真理・理屈)を判断したりすることも無い」ということですね。

そしてその後に

無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽

となっています。

これは「無明も無く、無明も尽きることも無い。乃至、老死も無く老死が尽きることも無い」という意味ですが、この「乃至(ないし)」というのは、〇〇から△△に至るまで全部という意味。

ここでは「無明」から「老死」に至るまで全部ということになります。

では「無明」から「老死」に至るまでの間には何があるのでしょうか。

仏教に十二因縁というのがあります。
お釈迦様は人間の「苦」の原因とその流れを、次の12の段階に分けて考えられたそうです。

無明 ⇒ 行 ⇒ 識 ⇒ 名色 ⇒ 六処 ⇒ 触 ⇒ 受 ⇒ 愛 ⇒ 取 ⇒ 有 ⇒ 生 ⇒ 老死

これは、この一番最後にある「老死」という苦から因果関係を考えていくということで、老いたり死んだりするのは、「生」つまり生まれるということがあるから…。
そしてその生まれるというのは、業(ごう)というものが未来の結果を「有する(有)」から…。
という感じでどんどん因果関係を遡っていくと、結局ヨーイ・ドンは「無明」であって、それがあるから悩みがあるんだという理論です。

さて、これらを一つずつ説明するとすごく長くなるというのもあるのですが、ここの部分は簡単に終わることにします。

なぜなら、確かに因果というものを大事にするのが仏教の教えですが、筆者がよく用いている家族療法とか解決志向アプローチという心理療法の考え方では、「原因に囚われすぎない」というものだからです。

どういうことか、例を挙げて説明しますね。

例えば子どものゲーム依存で悩む親御さんがカウンセリングに来たとしましょう。

そしてその親後さんは、こう言って後悔します。

「この子が小さい時に、わたしが厳しく育てたのがいけなかったんです」

ところがその前に来た、やはりゲーム依存で悩む親御さんはこう言っていました。

「この子が小さい時に、わたしが甘やかして育てたのがいけなかったんです」

一般的には人は因果関係を知りたがります

もちろんそれを否定するわけではありません。
例えば今罹っている病気が細菌が原因だったとしたら、これは抗生物質を飲むことによって解決するでしょう。

ところが細菌による病気ではなく、慢性病だったらどうでしょう。

筆者は今、糖尿病の薬を飲んでいるのですが、これは巷で言われているように美味しいものの食べすぎかもしれませんし、お酒を飲むせいかもしれません。

糖尿病とストレスには密接な関係があるそうなので、仕事のストレスのせいかもしれませんし、運動不足のせいかもしれません(じゃあ、どうしてストレスがたまったのか、或いは運動不足になった原因は何で?)。

それにひょっとしたら遺伝ということも考えられます。

というよりは、たぶんいろいろなことが組み合わさってなっているのじゃないでしょうか。

それを一つの原因に絞って決めつけてもしょうがないし、ここにはもう一つ大きな問題があるのです。


例えば美味しいものの食べすぎが、大きな原因だったとわかったとしても、それを何度も後悔すれば糖尿病という問題は解決するのでしょうか。

もし100回後悔したら血糖値が下がるというのなら、これはクライアントに後悔することを勧めるし、筆者自身も「よしっ!あと37回の後悔だ!」とか頑張って後悔します。

でも100回後悔しても、現在の血糖値は下がらないんですよね。

今大事なのは、食生活の目標設定とか運動の目標設定なのです。

単なる「後悔」だけなら、一回やれば充分


しつこいようですが、もう一つ例を挙げます。

例えば水泳が苦手な人がいたとします。
そして原因は幼児の頃に父親がお風呂で手を滑らして、湯舟の中に子どもを落としたことだったとします。

この場合、その「昔、湯舟に落としたこと」について父親を責めれば、その人は水泳が苦手じゃなくなるのでしょうか。

父親が100回後悔したら、水泳が上手くなるのでしょうか。


実はアダルト・チルドレンを始めとした親子問題で悩んでいる人は、ここのところで悪循環に嵌っている人がとても多いんですね。

カウンセリングを受けに行ったら子どもの頃の親子関係を聞かれたとします。

そこで何らかの問題を発見したら、アダルト・チルドレンではないかといろいろな兆候を聞かれます。

「あなたは人前では明るくふるまっているけれど、本当は明るい気分じゃないけれど一生懸命気を遣ってふるまっているのではないか?」とか…(こういう誰にでも当てはまるような曖昧な表現が、その人自身に特有のものであると錯覚させるのを心理学ではバーナム効果と言うのですが)。

あとは、今上手くいかない原因をひたすら探し続け、これで暗いアダルト・チルドレンの出来上がりです。

ただ勘違いされると困るのですが、お釈迦様がこのパターンだと言っているのでは決してありません。
実はお釈迦様が言う「無明(無知)がそもそも苦の根源だ」というのは、筆者も本当にその通りだと思うのです。
無明、つまり「知らないこと」が「苦」を生むというのは確かにそうだと思います。

もっともお釈迦様が言った「無明」というのは「真理(本当の智慧)を知らない」というとんでもないハイレベルな話なのですが、そこまでじゃなくても例えば筆者がよく講演の時に話させてもらう「コミュニケーション」とか、とか、「ネット・ゲーム・スマホ依存防止」なんてその典型だと思います。

「発達障碍やグレーゾーンの療育法」だってそうです。

「知識(対処の仕方や予防の方法)を知らない」というだけで、どれだけ多くの人たちが「苦」を背負って悩んでいるのか、恐ろしい話です。
 
知らないが為に苦を背負い、原因追及でまた親子関係や夫婦関係まで悪くなってしまって…。


さて話は戻るのですが、しかし般若心経はせっかくお釈迦様が考えたこの十二因縁も、「無い」と言い切っているんですね。

ちなみに「無無明亦無無明尽 乃至無老死亦無老死尽」の中にある「乃至」というのは、無明の次の「行」から老死の手前の「生」まで全てという意味です。

ということは、早い話が無明、行、識、名色、六処、触、受、愛、取、有、生、老死の全てが「無い」し、無いんだから全てが「尽きることも無い」と言っていることになるわけですね。

十二因縁というのは連鎖ということですから、老死と無明の間にあるのも全部「悩み」や「苦」には関係するのですが、この中の項目で本などに特によく苦の原因として書かれているのが、「愛(対象への渇愛)」と「取(「愛」によって対象に執着すること)」です。

確かに渇愛(「もっと、もっと」)と執着は苦の大きな原因ですよね。 でもこれらも無いし、無いんだからこれらの尽きることも無いというのが般若心経の言い分らしいです。

要は、「無い」んですよ…。

だったらもう、ここらへんは「な~んも無いっ!」で済むような気がしないでもなかったりして…。


続きは「その12」へ。


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